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仙台家庭裁判所 昭和31年(少イ)4号 判決 1957年2月27日

被告人 加藤吉郎

被告人 宇賀神吉次郎

主文

被告人等を各罰金壱万円に処する。

被告人等に於て右罰金を完納することができないときは、金弐百五十円を壱日に換算した期間、被告人等を各労役場に留置する。

訴訟費用は全部被告人両名の平等負担とする。

理由

一、罪となるべき事実

第一、被告人加藤吉郎は、昭和三十一年八月上旬より同月十三日頃までの間、前後約七回に亘り、仙台市榴ケ岡十八番地の自宅において、児童であるB子(昭和十五年二月二十二日生)につき適切な年令確認の方法を尽さないで、同女をして氏名不詳の客約七名と売淫をなさしめ、

第二、被告人宇賀神吉次郎は同年八月中旬頃より同年九月末頃までの間、前後約八回に亘り、右同所において、児童である前同女につき適切な年令確認の方法を尽さないで、同女をして氏名不詳の客約八名と売淫をなさしめ、以て被告人等はいづれも満十八歳に満たない児童に淫行をさせたものである。

二、証拠

右事実は、

一、B子の身上調書(○○市長より仙台地方検察庁に対する回答書)

二、被告人加藤吉郎の身上調書(河北町役場回答書)

三、被告人宇賀神吉次郎の前料調書(回答宇都宮地方検察庁)

四、被告人宇賀神吉次郎の身上調書(回答者鹿沼市長)

五、昭和三十一年十二月六日附仙台地方検察庁検察官に対するB子の供述調書

六、昭和三十一年十月九日附仙台東警察署司法警察員に対する被告人加藤吉郎の供述調書

七、昭和三十一年十月十日附仙台東警察署司法警察員に対する被告人加藤吉郎の供述調書

八、昭和三十一年十月二十日附仙台地方検察庁検察事務官に対する被告人加藤吉郎の供述調書

九、昭和三十一年十一月一日仙台地方検察庁検察事務官に対する被告人加藤吉郎の供述調書

十、昭和三十一年十月四日附仙台東警察署司法警察員に対する被告人宇賀神吉次郎の供述調書

十一、昭和三十一年十月九日仙台地方検察庁検察官に対する被告人宇賀神吉次郎の供述調書

十二、証人B子の当公廷における供述

を綜合して之を認める。

三、被告人等及弁護人の主張に対する判断

被告人両名及弁護人はB子が被告人等の家に住込んだのはB子との間に雇傭関係があるものではなく唯単に同女に場所を提供したに過ぎない。従て同女に売淫を強制したり勧誘をしたことはなく、売淫は右B子の自由意思に出てたものである。又B子は、住込の際年令を二十歳と自称し、且つ身長五尺三寸余もあり、体重も十五貫位で、その容姿、態度から見て到底十八歳未満とは信じられない。従て同女の年令が十八歳未満であることを知らなかつたことにつき、被告人等には毫も過失はなかつた。依て児童福祉法第六十条第三項但書に所謂過失のないときに該当するから責任はなく各被告人は無罪であると主張するが、案ずるに児童福祉法第三十四条第一項第六号に所謂「児童に淫行させる行為」とは十八歳未満の年少者を直接又は間接に強制し勧誘した場合は勿論、かかる年少者に淫行を示唆し暗示し、或は特定の部屋を供与して便宜を図り、その結果児童をして淫行を為すに至らしめた、あらゆる場合を、広く包含するものと解するを相当とする。そして、判示証拠によれば、被告人等が、B子に対し直接又は間接に淫行を強制し勧誘した事実は認められないが、然し判示証拠を精査検討すれば、同女は児童福祉法に所謂児童であつて、被告人等がいずれも同女を自家に住込ましめ、特定の部屋及布団を提供して便宜を計り、淫行を容易ならしめ接客婦として一泊千円、短時間或は三百円或は七百円の割合で稼働せしめ、依て該児童から収益として接客の都度一定率(即ち収入金配分の割合はその四分を被告人等、その六分を接客婦の各取得としていた)の金銭を徴収し、その結果、同女をして判示日時場所において、それぞれ不特定の男客と淫行をなすに至らしめた事実を肯認することができるので、従てたとえ本件淫行行為か同女の自由意思に出でたものであつても又被告人等との間に雇傭関係がなくとも被告人等の右所為は児童に淫行をさせる行為をしたものとして、児童福祉法第三十四条第一項第六号の規定に違反するものというべきである。更に前記の如く、被告人等が同女の年令を知らなかつたことについて過失がないから無罪であると、抗争するので、この点について考察するに、元来児童は心身ともに健かに育成され愛護されなければならないところ成人に比し精神的に未熟であるので、目前の利害、環境、情実等に左右され易く、その結果淫行に陥る危険があるので極力その危険からこれを保護しようとする精神から、同法第六十条第三項は児童の年令を知らないことを理由として前条第一項の処罰を免れることができない旨を原則的に定め、「但し過失のないときは、この限りでない」と例外的に免責事由を定めているのである。そこで、B子が各被告人に年令を二十歳と自称し、体格も特別に大きく、又態度、容姿等から外観上十八歳以上と認めらるる状況であつたとしても、外形的な身体の発育状況のみで年令を推認することが多くの場合誤差を伴い甚だ不正確なものであることは、日常経験されるところであるから、ただ右のような事情のみでは年令確認について「過失がないとき」というべき正当の事由があるということはできない。蓋し、被告人等が苟も接客婦を住込ましめて、一定の部屋や布団を与え、便宜を図り、一定率の利益を収得するのであるから、その年令が満十八歳に達しているか否かを確かめるために、或は米の配給通帳の提出を求め、或は戸籍謄本を取寄せ、或は親権者に照会する等、年令確認の事実を調査するため、一切の手段を構ずべき義務があることは、当然の事理であるのに、事ここに出でずして、前記の如く身長、体躯、容姿を観察し同女の自称年令を聴取したのみで、他に何等同女の年令確認の方法を尽さないで漫然十八歳以上の者であると軽信したことは、当然なすべき前記調査義務を懈怠したものというべきであるから、同女の年令を知らなかつたことにつき、過失があつたものと認むるを相当とするので、児童福祉法第六十条第三項但書に該当しないことが明かである。

以上説述したとおりであるから被告人等及弁護人の前記主張はいずれも採用しない。

四、法律適用

法律に照すと、被告人等の判示各所為は、夫々児童福祉法第三十四条第一項第六号第六十条第一項第三項に該当するので、諸般の事情を参酌していずれもその所定刑中罰金刑を選択し、その金額の範囲内で、被告人等を各罰金壱万円に処し、右罰金を完納することができないときは、刑法第十八条に則り、金弐百五十円を壱日に換算した期間、被告人等を労役場に留置することとし、なお訴訟費用の負担については刑事訴訟法第百八十一条第一項に則り主文の通り判決する。

(裁判官 三森武雄)

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